アパレル(洋服)の製造原価/原価率について考える。
アパレル・ファッション業界で洋服を生産する上で必要な要素の一つ、製造原価/原価率についてあらためて考えてみます。
今回は、製造原価の復習、原価率についての記事です。
言葉の意味を理解する。
「製造原価」
洋服1枚を生産する際にかかる費用のことを「製造原価」と呼びます。
簡単な計算式に書き起こすと、
洋服の製造原価 = 生地代+付属代+縫製工賃+仕上げ代+検品代+輸送費
となります。
「原価率」
次は「原価率」がなにを指すのかを説明します。
原価率というのは上代(販売価格)に対しての原価の割合を示す数値です。
原価率=上代(販売価格)/製造原価
原価率の「高い」「低い」は相対的。
仮に宣伝文句として高い原価率をうたうファッションブランドがあるとします。
業界で生産管理に携わる身としては、ここで言う「高い」というのは一体に何に対して「高い」なのかを考える必要があります。
一般的に洋服の原価率は、商品の販売価格に対して20%〜30%と言われています。
10%もの幅があるのは、企業の業態や商品の投入時期によって適正となる原価率が変わってくるからです。
この業界としての目安に対して、相対的に「高い」原価率を設定している企業が少しずつ増えてきています。
「原価率40%以上」は非常に高原価率と考えていいでしょう。
原価率をどう抑える(調整する)のか
同じ販売価格であれば、当然原価率を抑えることが利益の増大に繋がります。
基本は交渉になる。
商品の外観やサイズを全く変えずに原価率を下げるためにできることは下記のようなことがあります。
・原材料の仕入先と単価交渉
・外観と着心地が変わらない程度に縫製仕様とパターンを簡素化
・縫製工場と縫製工賃の交渉
交渉は単発では有効ですが、毎回値引きを要求されていると当然ですがいい顔をされません。
長期的には別の方法で原価率を抑える必要があります。
原価率を一定に保つことで安定した利益が見込めるため、MDや営業にとっては非常に重要なことです。
最終的には仕入れ担当者と工場(商社)との交渉・調整で決まることなのですが、製造元(縫製工場)にとってはあまりメリットが有りません。
工場にとってもメリットがある方法とは
縫製工場にとってメリットが有りつつもアパレル側にとって原価率を抑える方法が3つ4つあります。
月間(もしくは年間)の発注金額を取り決めておく
近年日本のアパレル・ファッション業界でものづくりの主流となっている、”多品種小ロット生産”。そして”時期をひきつけてからの発注”。
これは縫製工場側にとって非常に大きな心理的負担となっています。
いつ発注が出るのかはっきりしない。そして発注が決まったとしても、少量発注のため採算分岐点が高くなってしまい発注自体が他社に振り返られてしまうのではないか。
この心理的負担を取り除くことができれば、縫製工場も安心してアパレル企業にとっても旨味のある単価での仕事を受けることができます。
アパレル企業側ができることは、月間(もしくは年間)の発注金額を縫製工場へ明示してあげて、その通りに継続的な発注をするということです。
小規模の工場であれば専属で自社商品のみを生産してもらうこと、複数ラインを持つ中規模以上の工場であれば自社専用ラインを抑えるということです。これはアパレル企業の生産管理担当者にとってもありがたい手法で、縫製工場のキャパシティ確保という業務から解放されることを意味します。
双方がwin-winとなる関係を築くために、非常に有効な手法であると言えます。
発注量を増やす
生産数量を増やすことで、縫製工賃を抑えることが可能です。
縫製工場としては、同じ工賃の商品を1000枚を生産するとしても10種類の形を縫うよりも1種類の形を作るほうが効率が非常に良くなります。
なぜ商品の種類が少ないほうが効率が上がるかという理由には、主に下記の3点があげられます。
・工員の手が慣れてきて、品質を落とさずにスピードが上がる。
・ミシンの糸や針の交換、糸調子の確認などのメンテナンスの時間を必要としない。
・裁断の回数や時間が短縮できる。
しかしながら、商品によっては例外として発注量が多いほど縫製工場にとってのデメリットが増えることもあります。
縫製仕様を簡素化する
縫製仕様を簡素化することで縫製工場での工程が減り、縫製工賃を抑えることが可能です。
例えば、人の手でつけることしかできないボタンを機械で取付可能なボタンに変更するだけで効率は大幅に上がります。
ボタン付けのスピードだけでなく、工場の人員を他の仕事に回せるようになるため他の工程の効率アップにも繋がります。
閑散期に生産する
縫製工場には、アウター専門やボトム専門といった得意としているアイテムが存在します。
稀にオールアイテム縫製できるという工場もありますが、それでも得意としているアイテムが必ず存在するはずです。
洋服は季節性という要素が非常に大きいため、縫製工場への発注時期も偏りが出がちです。
例えばセール時期の前になると発注を絞ったり、中国が旧正月でお休みの時は発注が集中したりといった具合です。
更にアイテムに特化していると、どうしても発注が集まらず工場を稼働させることができないという時期が出てきていしまいます。
縫製工員を雇っている以上、工場が稼働しないと払う給料を稼ぐことができません。
この問題を解消するために、通常よりも安い工賃でも仕事を受けて工場を可動させる手法があります。
例えば、冬物のアウターを春先から縫製したり、夏のTシャツを半年前から作っておくといったことです。
縫製工場としては、工場を閉めて人件費だけが発生するより、利益はあまり見込めなくても工場の稼働を選んだほうが良いと分かっているので、こちらも発注元製造元それぞれにメリットが有る手法となっています。
閑散期にあえて発注を出すことで通常よりも割安な縫製工賃で生産を発注するという手法が昔から行われてきました。
近年は販売時期ギリギリまで引きつけてから企画、生産を行うアパレル企業が増えているため、以前に比べると閑散期生産という手法はあまり取られていないように感じます。