ファッションは”夢”ではなく”現実”の時代なのか
8月12日の朝、繊研新聞のウェブサイト「繊研電子版」にこんな記事がアップされました。
今は洋服を販売するメーカーにとっても、購入着用する消費者にとっても、ファションというのは”夢や理想”ではなく”現実”のものなのです。
実需時代とは
記事内では、現在の市場についてこう語られています。
レディス市場で年々、実需買いが強まっている。必要に迫られて明日からすぐ着られる服を探す女性も多い。目的のアイテムに対して比較購買するのが当たり前の今は、どっちつかずのブランドは選ばれない。
今のキャリア層のニーズを「1週間に何度使えるかという頻度と、今買ってすぐ着られるという実需、そして長く着られること」とみている。
出典:繊研電子版 8月12日記事『実需時代を勝ち抜く(上) 中途半端は通用しない』
新宿で最新のトレンドを発信しているルミネエストでも、「今の消費者は本当にジャストニーズ。明日着られて、長く着られる服が売れる」とみている。
出典:繊研電子版 8月13日記事『実需時代を勝ち抜く(下) 消費を刺激する仕掛け』
実需とは、実際に使用する商品の需要という意味です。
かつてはシーズンに入る前から店頭に並んだ次にシーズンの洋服を先に買って、数ヶ月先にはじめて袖を通すということが、ファッション好きでは当たり前のことでした。
各アパレルメーカーもそれを当然のこととして販売の半年〜1年前から商品企画を始め、実際に着用する時期よりも大分前に店頭に商品を並べて販売していました。
ですが、そこに”夢”は果たして存在していたのでしょうか。
“夢”としてのファッション
ファッションに”夢”を見るとはどういうことなのか、具体的に考察してみます。
違う自分に出会える
普段Tシャツにジーンズ、スニーカーという着こなしだけだった女性が、ひょんなことからハイブランドのドレスを着用する。
素材もシルエットも仕立てもすべてが日常と違う、非日常を味わえます。
人間誰しも「変身願望」を少なからず持っているので、ファッションは手軽に違う自分に変身する事ができます。
かの有名な映画「プラダを着た悪魔」でも、主人公のアンドレアが中盤でファッションを劇的に変えることから立ち居振る舞いや仕事の出来も変わり人生が一気に激変するさまが描かれていました。
見るだけで高揚する服を着る喜び
これは女性より男性に多いのかもしれませんが、パターンのこだわりによる洋服の面(つら)が美しいと店頭で見ただけでも「良いなあ!!」と感じることがあります。
そういった服は往々にして着心地を優れているので、着用していて快適に感じることが多いです。
近年はコレクションブランドではなくても、店頭に並ぶ前にウェブ上のルックブックやEC先行予約という形で商品を事前に見ることができるようになってきました。
好きなブランドの新作を見ることは画像データであっても楽しいものです。
この2点から推測できることは、ファッションに”夢”を見るということは自己の内面、そして自己実現に関わることなのだということです。
“現実”としてのファッション
今度はファッションに”現実”を見るとはどういうことなのか考察してみます。
目的達成のための手段
異性にモテるため、商談で相手にしっかりした人物であることをアピールするためといった目的があり、その目的達成のためにファッションを利用する。
現代においてファッションに求めるものとして一番大きな要素であると考えます。
ファッション誌を本屋でいくつか立ち読みするだけで分かるのですが、
読者モデルなど、他者からの注目を集めたいといった「承認欲求」を満たすという目的のためにファッションを活用している人もいます。
明日着る服を求める
急に暑くなったから、急に寒くなったからと言った気候の変動による利用は非常に現実的です。
ここに深い意味はないでしょうから、ファッションに”現実”を見るということは他者からの目線や評価、承認欲求など外部に軸をおいた考え方なのだと推測できます。
今も”夢”はある。あまり見えにくくなっているだけだ。
自分はアパレル・ファッション業界に身を置きながらも、ここ5年ほどはコレクションでのニュースや巷のトレンド情報といったものをほとんど追っていませんでした。
生産という職業柄仕事において重要でないということもあるでしょう。
しかし、Fashionsnap.com や WWD JAPAN、繊研新聞などのチェックはしているので情報自体は入る環境下にありながら記憶にも残らないというのは時代が変わってきたというのは間違いないと思います。
これはまずいと思い、最近コレクションを自分からチェックするようにしてみたのですが、やはり面白いなというのが一番の感想です。
高額なコレクションブランドやデザイナーズブランドに消費をするような時代ではないというのは分かっていますが、やはりハイブランドが持つ”夢”というものが、もう少しでもマスの部分にも届いて欲しいと考えています。